うかつだった、ヒッチコックは愛の監督だった。サスペンスに一番似合うのはエロティシズムだ。「めまい」も「サイコ」も「北北西に進路を取れ」も愛の映画だった。
人を好きになることはもちろん、好きになった人を嫌になれないことも知っていた第1級の愛の表現者だった。
それにしてもレベッカのジョーン フォンティーンは美しい。美が歩いている、話している。美、それ自体が伝える力を持っていることをまたヒッチコックは知っていた。美が人を振り向かせ、傷つけることも知っていた。見えないレベッカ、現れることのないレベッカ。何よりも美には謎が似合うことを知っていたヒッチコック。