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友人の写真事務所が毎年開く「夏の忘年会」に参加してほろ酔い気分で後にした。新宿駅で飲み会に参加した友人二人と別れる。そのまま家に帰るのはモッタイナイ…と感じたのか足は新宿で動きが止まる。会に遅れて参加したせいか、口に入れるものはアルコールがメインになってしまった。少し腹に何か入れようと、新宿ションベン横丁へそのまま向かうことにした。7月の上旬、梅雨の真ん中だった。
金曜日の夜11時過ぎ、新宿はごった返していた。ごちゃごちゃしたションベン横丁、何も好き好んでひとり酒を飲むわけではない。この横丁には若い頃から、年に1、2回思い出したようにしか行かないラーメン屋がある。ションベン横丁の「メインストリート」にあるラーメン屋がそれだ。昨今の狂態とも思えるラーメンブームに出てくるような店ではない。ものすごくおいしいかといえば、そうでもない。かといってまずいわけでもない。だからといってどこにでもあるわけではない。そんなラーメン屋だ。 この店にはじめて入ったのは高3の頃、当時は進路も決めかね、部活にも出なくなり友人と毎日のように吉祥寺や新宿のロック喫茶へ行っていた。吉祥寺は「赤毛とソバカス」「OZ」それにちょっとフォークな「ぐあらん堂」と飲みたくもないコーヒーを頼んでいた。コーヒーや音楽に飽きると吉祥寺の檸檬という変な喫茶店に行っては延々何かを話していた。ここのマスターは一言もしゃべらず、なみなみとついだ紅茶をレールに乗って向かってくるようにテーブルの前に来て、一滴も紅茶をこぼさずに見事に置いていく人だった。それと壁に掛かっていた銅版画だけは憶えている。 そして新宿はライトハウス。コマ劇場に向かう手前の道を右に曲がったところに小さな公園があった。となりには古いお城のようなクラシック喫茶があり、そのはす向かいの地下にあったのがロック喫茶の「ライトハウス」だった。その下にはロック系のディスコのような喫茶店のような得体の知れない「サンダーバード」という店があった。ぼくと友人のねじろは「ライトハウス」だった。 ライトハウスの店内は中央にリクエストなども受け付けるDJコーナーがあって、紙に書いてウエイトレスに渡す方式になっていた。書けばなんでもかけてくれるわけでもない。いわゆるちょと、ポピュラーなダサい曲なんぞ書くとなかなか、かけてくれない。そこで雑誌やレコード店、ラジオから情報をとりいれてミュージシャンを知り、リクエストを書くわけである。ぼくは当時女ジミーページとして一部で名を馳せたエイプリル・ロートンのいるラマタムというバンドが好きだったのでこいつを書いたらえらく選曲の女の子が気に入ってくれた。こんな小さな世界でも認められるってのはうれしいもんだった。 店内は狭く、長髪の男女が大音量の中ビンボー揺すりのようなリズムをとりながら音楽を聞いていたり、膝を抱えてボーっとしていたりしていた。コーヒーを持ってくる女性はみんなカルメンマキやリリーを気どっていた。壁にはクリームやユーライアヒープ、トラフィックらのレコードジャケットが絵のように掛かっていた。高校生には2000円のレコード代は高すぎる。ここにくればコーヒー杯で2時間も3時間もねばれる。 壁に掛かるレコードジャケットや階段、トイレに貼ってある映画、演劇のポスターがぼくの美術教育と自らの道の始まりでもあった。 音楽に聞きあきたり、話つかれたりすると、ときおりションベン横丁のラーメン屋に行った。「夏の忘年会」を終えてラーメン屋に座っていたぼくは、あの頃とちがうのはひとりなのと、食べた後ゴールデン街に行くことだけだった。 軽い酔いにまかせて、ラーメン屋のおばさんに37年目にして、はじめて声をかけた。 「こんな時間にこの店に来たのははじめてだな。おばさん、たまにぼく、ここへ来るんですよ。」 おばさんはぼくが頼んだラーメンをつくりながら下を向いて言った。 「知ってますよ。」 「ぼくは高校生のころから、本当にたまにだけど来てるんですよ」 「知ってますよ。憶えてますよ。髪の長い友達といつも一緒だったでしょ。でも、変わらないね。お客さん」 いくらなんでも、高校時代から変わらないわけはないのだが、ニールヤングのファッションが好きだったぼくは今とさして変わらない。ただおばさんもぼくもお互い年をとり、同じ歩みの中で変わらないように見えるのだろう。 「ありがとう。お世辞もうまいね。ラーメンも、店先で作っている焼きそばも変わらないね」 37年目にして、はじめて声をかけた。おばさんもぼくも気恥ずかしそうだった。店の名前も知らない。でもぼくの大好きなラーメン屋だ。赤いデコラ板のスタンドテーブルの前に座ると、あの頃のダシがきいているせいか、過去へと引き戻してくれる。何をしても楽しく、悩んだあの頃へ。
by zuankousakuin
| 2010-07-23 14:40
| 四方の話
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